贈る者−2−

「もうお母さんなんて知らない!」
 バタンッ!!
 と、大きな音をたてて玄関のドアを乱暴に閉める。

「待ちなさい!美鈴!!」
 母親の声が聞こえたが、それも遠くなっていく。


「…」
 近くの公園のベンチにゆっくり座る。
「またやっちゃった…」
 美鈴は深くため息をついた。
 高校に入ってすぐ、何故か母親の言葉になんでも過剰な反応を示してしまう自分。
「…別に、お母さんが悪いわけじゃないんだけど…」

 ぶらりと足を揺らした。

 ふと、自分の前に陰が。

「ん?」
「こんばんは。お嬢さん」
 見ると、いつの間にか目の前に青年が立っていた。
 優しそうな顔立ち。
 どこにでもいそうな風体。
「こんばんは…」
「俺は『贈る者』。君に『贈り物』を届けにきたんだ」
 ふにゃりと笑った。
「はぁ?」
「…はぁ…って、そりゃそうか」
「贈り物を届けに…配達業者?」
「違うよ…ある意味配達だけどね…君達の言う『配達』とは意味が違うかな」
 青年は優しく微笑んだ。
「変な人…私の家はお金持ちじゃないわよ?」
「…誘拐犯とかでもないんだけど…」
 困ったように青年は頭をかいた。
「わかったから…贈り物ってなに?さっさと渡してどっかいって!」
「無理だよ〜」
「はぁ?届けに来たんじゃないの!?」
 青年の返答に、美鈴は大きな声で攻め立てる。
「あ〜、あのね…俺が届けるのは『その人が本当に欲しい物』なんだ…でもそれはある程度、本人がわからないと俺にも届けられないんだよ」
「なにそれ…変な配達ね…」
 美鈴は肩でため息をつく。
 まぁいい、こうやって青年を相手にするのは悪くない。
 嫌な事も忘れられそうだから。

「なんで、こんなところに居たの?」
「前言撤回…」
「ん?」
「なんでもない!」
 自分の考えは簡単に否定されてしまった。
「お母さんとケンカしちゃって…」
「そうか…君みたいな年頃だと、ついつい反抗しちゃうんだろうね」
「そうなのよ!…今まではなんでもなかったのに…私ね。お母さんの事大好きなの」
 青年は美鈴の隣に座ると、真剣な顔で話を聞いてくれた。
「なのに…つい、『馬鹿!』とか…『ほっといて!』とか…どうしてこうなっちゃったんだろ…」
「でも、お母さんの事?」
「大好きだよ!あんまり成績よくないけど、頑張れば誉めてくれるし…」
 美鈴は項垂れた。
「あ…どうしたの?大丈夫?」
「…謝りたい…」
「?」
「お母さんに…謝りたい…」
 涙が零れた。


「大丈夫。ちゃんと謝れるよ…」
 青年が優しく頭を撫でた。
――あったかい…。

「あれ?」
 ふと気づくと、青年は居なかった。
「なに…?贈り物がどーのはどうしたのかな?」
 頭の上にハテナマークを浮かべながら、美鈴は家に向かった。


「ただいま!お母さん!」
 すっかり夜も更けていたけれど、母親は美鈴の帰りを待っていた。
「美鈴!…おかえりなさい…」
 嬉しそうに母親が微笑んだ。

「お母さん…ごめんなさい!」
「いいのよ…お母さんも言い過ぎた…さ、ココアを入れるわね」
「うん!」


「よかったね美鈴ちゃん。俺の『贈り物』で素直になれたね」
 青年は家の外からゆっくり微笑んで、美鈴に呟いた。
「『素直に謝る気持ち』が俺の『贈り物』…これからもお母さんを大切にね」

 青年は、そう言って消えた。


「…そうか…贈り物って…」
 美鈴ははっと気がついて、後ろを見た。
 誰もいないのに。
「どうしたのー?美鈴…飲まないの?」
「飲むよ〜!」


――有難う『贈る者』のお兄さん!


FIN

役にたちゃしないキャラ設定

贈る者−青年
身長180センチ 体重75キロ(くらい?)
*『贈る者』に年齢や体重の概念がありません。参考程度

美鈴
16歳 女子高生
身長152センチ 体重42キロくらい
どこにでもいそうな女子高生